1月25日(水曜日) 晴れ 寒さも緩み、朝マイナス9℃、昼マイナス5℃、夜マイナス9℃。 体の調子は良くもなく悪くもなく。昨日は喉と頭が痛かったのが、今日は腹に移ったみたいです。これを書いている今現在はくしゃみと鼻水に。プロデューサーから「明日は仕事に来るんじゃない」と言われましたが、健康保険半年分を払いに朝から健康保険事務所には行くので、どっちにしろ外に出るわけです。 日本でならこのくらいの体調で休むなどと言ったら大顰蹙ものですが、こちらでは「病人は治るまで出てくるな。他人にうつす」という考えで(それはそれで正論ではあります)、未だに社会主義政権時代のやり方が抜けていないというか、風邪ぐらいで二週間は平気で休みますから。それで仕事が動いていくということの方が驚異的。いや、当然動いていかなくて、その間ほったらかしなのですが。これを人間的と見るか、甘えと見るか。 年末日本へ一時帰国した際に買った『争議あり 脚本家荒井晴彦全映画評論集』(荒井晴彦 青土社)読了。 湯布院映画祭の常連ゲスト、脚本家兼雑誌『映画芸術』編集長の荒井晴彦さん(「Wの悲劇」(共同脚本:澤井信一郎)、「ヴァイブレータ」)がこれまでに書いた映画についての文章を集めた大部な本(湯布院映画祭のパンフレットに書かれたコメントも収録されています)。値段もグッとお高く、3,800円(税抜き)。でも値段以上の価値は十二分にあります。 ぼくは「キャバレー日記」、「母娘監禁 牝(めす)」、「リボルバー」等の荒井さんが脚本担当された作品も好きですが、今はなき『シティロード』(かつては『ぴあ』のライバルだった情報誌)に書かれていた映画評(その後は日記に変更)のファンでした。雑誌によくある複数の評者による映画星取り評の中で一人だけ、「映画を星なんかで安易に切り捨てるんじゃない」と星をつけることを拒否し、真摯な文章を書き連ねていた姿勢は清々しいものがありました。 好きな映画がぼくとは全く違っていても、「荒井さんが褒めるなら観てみようか」という気にさせてくれました。もはや憶えている人は少ないであろうイギリス映画の小品「遠い声、静かな暮らし」(1988年 監督テレンス・デイヴィス)などは荒井さんが褒めていたので観に行ったのでした。(今調べたら、「遠い声、静かな暮らし」の頑固親父を演じたのはピート・ポスルスウェイトだったということがわかりました。ビックリ) 日記もそうですが、自分の仕事および私生活での怨みつらみをあからさまに書く荒井さんの姿勢は「愚痴と怨みの荒井」と言われ批判者(特に映画業界からの)も多いのですが、そうした文章がすべて集められたこの本は「自分の七転八倒ぶりをここまで公にさらけだすか」と讃嘆の念を抱かせるほど圧倒的な迫力を持っており、決して小説ではないのにまるで優れた私小説のような痛切さがあり、興奮さえ覚えました(私小説嫌いのぼくが)。映画にかける荒井さんのこの思いを受け止められるほどねばり腰の映画ファンというのはそういないのではないでしょうか。映画好き、映画を志す人間必読の書であります。推薦相当。
by yaliusat
| 2006-01-26 08:08
| 読書
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